存在の意味
あぁ……何か降ってくるわ。
あら、しずく ――――?
目と口がついていて、しゃべるのね!!
私の手のひらで話し始めた。
「ボクが案内するよ。 ボクたちの世界を。」
しずくは、私を案内してくれて、私は歩き始めた。
「ここは川だ。ボクたちが降ってきて、川に流れ やがて海に入る。水は循環しているんだよ。
ボクたちの役割はいろいろさ。森に落ち、森のすべての木々、草、花の中に吸い込まれて命を与える働きもする。
ただ屋根に落ちて、流れ落ち、地面の水たまりとなり、かわいてまた空にのぼり雲になっていく者たちもいる。
動物たちの体に落ち、流れ、汚れを落とすために汚れた水となって、地に落ちる者もいる。
池に落ち、泉に落ち、湖に落ちる者たちもいる。
水の流れは、人間に命を与えるんだよ。
ボクたちが降らなければ あなたたちは生きながらえることができないはずだよ。
私が「うん、うん」と うなずきながら聞いていると、しずくが言った。
「あっ、イエスさまが来られた!!」
しずくは、ていねいにおじぎをした。私も一緒におじぎをした。
イエスさまは
≪どうした娘よ、あなたはしずくの話を聞いたのか≫
―はい、主よ。ためになる話でした。
≪そうか。≫
イエスさまは あぐらをかいてお座りになり、
≪わたしも聞こう≫ と仰せられた。
しずくはびっくりして
(イエスさま、わたしこそ、あなたさまからお話を聞きたいです。)
そうやって、ひれ伏した。
≪そうか、それなら わたしは語ろう。娘よ、あなたも聞きたいか?≫
―もちろんです。
しずくと私は正座をして、イエスさまの話を聞こうとしました。
≪娘よ、これから語るのは、かしこまった話ではない。わが子よ。ふつうに聞けばよいのだよ。≫
―はい、主よ。
私としずくはふつうに座りました。
≪青い空――これほど自由なものがあろうか。人は空を見て、空想を羽ばたかせるものだ。
青い空に浮かぶ雲は、自在に姿を変える。
人は、その雲の姿、形を見てホッと一息つく者もあれば、何の関心ももたぬ者もいて、
心の狭さ、窮屈さをあらわすものだ。
青い空、白い雲、そして光によって自在に色が変わる空だ。
ある時は虹を映し出し、ある場所ではオーロラも出る。
夜となれば幾千、幾万、数えきれぬ星の世界を造り出す。――それは神のわざだ。≫
わたしは、うっとり聞いていました。
しずくはソワソワしてきました。
―どうしたの?なぜ落ち着かないの?
「神さまは、ボクをおつくりになりました。
ただ空から降って地に落ち流れて海に入り、また空に戻る。
こんなボクたちは一体何のために造られたんですか?」
主は、しずくを じーっと見つめて こう言われました。
≪わたしの創造物に何一つ無駄なものはない。
すべてが意味を持って、ひとつひとつが造られたのだよ。大きな働きをなぜ求めるのか。
自分はこんな小さい者であって、何の役にも立たない1滴の水のようだと なぜ言うのか。
あなたは なくてはならない存在なのだよ。
人の目にはつまらないものでも神の目にはそうではない。わたしはあなたを必要としている≫
しずくはニッコリ笑いました。
「ボク、また行って働いてきまぁす」と言って出かけていきました。
≪―――娘よ。≫
―はい、主よ?
≪あなたたち人間も、同じような質問をよくするな。
自分なんかいても いなくてもいい人間なんだ。
どうせ自分なんか……と言いながら、どれほど心の中では、認めて欲しいと叫んでいる事か。
その思いが激しい風となって うずまいている。 つむじ風のようにだ。
人は、わたしに出会って 初めて存在の意味を知るんだよ。≫
―そうです。
私も長い長い間 苦しみ、あなたに出会って、その時初めて知ったんです。存在の意味を。
≪祈りの娘よ≫
―主の手が私の頬にやさしく触れました。
≪分かるか。わたしの心が わたしの あなたに対する愛だ≫